-中枢性めまい- めまいの原因は脳にあり!
当ブログにお越しいただき、ありがとうございます!
これまで、めまいを色々と紹介してきましたが、今回は"めまいを生じる病気”の、締めくくりになります。
これまでのめまいは、いわゆる"命にかかわることのない"めまいでした。
このようなめまいの事を、"末梢性めまい"とも呼びます。
そして、今回紹介するのは、末梢性めまいの反対である、"中枢性めまい”、つまり"脳"が原因となって生じる病気です。
一つひとつの病気を紹介するというより、"どんな時に脳が原因のめまいを疑うのか?”ということを中心に紹介していこうと思います。
なお、中枢性めまいを生じる脳の病気として、とにかく脳梗塞が重要です!
他に脳出血や脳腫瘍でもめまいを生じることがあります。
めまい以外の症状がある
これまでの投稿の中でも、めまい以外の症状がある病気は出てきました。
例えば、メニエール病や突発性難聴といった、”耳が聞こえにくい"、いわゆる難聴を伴う場合です。
このように、めまい+難聴の組み合わせは、基本的には"末梢性めまい"である場合がほとんどです(めまい+難聴だけど、脳が原因という、稀な状態は後述します)。
難聴ではない症状が、めまいと一緒に出てくる場合、そんな時は要注意です。
特に、めまいと一緒に出てきて、中枢性めまいが考えられる症状は以下の通りです。
①呂律が回らない(構音障害)
構音障害(こうおんしょうがい)といって、"呂律が回らない"という症状が出てくることがあります。脳の病気、特に脳梗塞では、多くの場合、この症状が出てきます。
なお、"ことばを話す"ということに問題が出てくる症状としては他に、"失語(しつご)"という症状もあります。失語は、"話そうと思っていることばが上手く出てこない"という症状のことで、"呂律が回らない"という構音障害とは別の症状です。
失語とめまいが一緒に出てくることは、ほとんどありません。
②顔面の麻痺
顔が動かなくなる状態です。左右両方とも動かなくなるのではなく、左右のどちらかだけです。
左右両方とも動かなくなる病気もありますが、珍しい病気のためここでは割愛します。
左右のどちらかが動かないと、多くの場合"口がゆがんで"見えるので、症状としてはわかりやすいと思います。
③感覚の症状
ここでいう"感覚"とは、"触った"とか"痛い"とか"冷たい"とか、といった症状です。
そのため、痛いとか冷たいという症状が分かりにくくなったり、"正座しているとき"のようなしびれ感が出たりします。
顔面の麻痺と同様に、左右のどちらかだけです。
ただし、顔は左がしびれているけど、手足は右がしびれている、というような脳梗塞もあります。
④ものが二重に見える(複視)
ものが二重に見えるという症状も、脳梗塞が原因のめまいでは一緒に出てくることが多いです。この症状は"複視(ふくし)"と呼ばれます。複視は、脳梗塞以外の原因でも出てくることがありますが、やはりめまいと一緒に出てくるとなると、どうしても脳梗塞を考えなければいけなくなります。
立ち上がることもできない!
めまいと一緒に他の症状が出現する場合、脳の病気を疑う!ということを紹介しました。しかし、めまいだけしか症状がないということもあります。
このような場合に脳の病気を考える症状、それは立つことが出来るかどうか、です。
とても強いめまいがあっても、何かに掴まったりすることで、何とか立ち上がることが出来るものです。
しかし、脳が原因となるめまいの場合、どんな事をしても立ち上がることが出来ないということがあります。
もちろん、めまいがある状態で、無理に立たせようとするなんて...ということは多く、"立つことができるかどうか"を診察室で評価するのは難しいことも多いです。なので、"病院に来るまでの間、少しでも立つことが出来たか"という情報が頼りになったりもします。
目のふるえ方で診断に挑戦!
目のふるえ方、つまり眼振で病気の原因を診断する方法は、以前の投稿でも簡単に触れましたね。
方向一定性眼振 vs 注視誘発眼振
その復習ではあるのですが、原則として、次のような見分け方がありました。
①方向一定性眼振は、脳以外が原因かも?
②注視誘発眼振は、脳が原因!!
方向一定性眼振とは、左を向いても右を向いても、左右どちらかにのみ、目が震えている状態でした。
そして注視誘発眼振とは、左右どちらかを向いた時だけに、目が震えている状態です。
方向一定性眼振だけど脳梗塞...の例外
この原則はとても大事ですが、実際には、方向一定性眼振なのに"脳が原因"ということがあります。
ただし比較的珍しい状態なので、そんなに多くはお目にかからないです。
この原因の一つとして、"内耳に血液を送っている血管が詰まってしまう"という脳梗塞があります。
内耳とは、体のバランスを調節する"前庭"と、音を聞くための"蝸牛"の総称でした。
この内耳ですが、実は脳に血液を送っている血管と同じ血管から、血液をもらっています(名前は、前下小脳動脈といいます)。
そのため、この血管が原因で脳梗塞になった場合、あたかも、左右どちらかの前庭が突然障害されたような状態になってしまいます。ただし、前庭だけでなく蝸牛への血流も遮断されるため、"音が聞こえなくなる"つまり難聴も出現します。
他には、顔面の麻痺も現れることも多く、"このめまい、なんかおかしいぞ!"と気づくことは簡単かもしれません。
上下に目が震えている
上下に目が震える状態、というのもあります。このような状態は"垂直性眼振"と呼ばれます(なお左右に目が震える状態は"水平性眼振"と呼ばれます)。
上下に目が震えていたら、まずは脳が原因で間違いないです。そして、結構危険な場所の脳梗塞であることが多いです。
他にも左右に目が震えずに、ただ目がぐるぐる回っているだけの眼振(純粋な回旋性眼振と呼ばれます)もあり、これも脳の病気である可能性が強くなります。
今回のまとめ
1.めまい以外の症状があるときは要注意!!
⇒構音障害、顔面の麻痺、感覚の症状、複視
2.どんなに頑張っても立つことが出来なければ要注意!!
3.注視誘発眼振、垂直性眼振、純粋な回旋性眼振があれば危険!!
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いかがでしたか?
ちょっと、盛りだくさんになってしまいました。
難しかったでしょうか.....
やっぱり、脳神経内科医をしていると、どうしても"脳の話"になると気合いが入ってしまいまして...
分かりにくいことがあったら、また再投稿しようと思いますので、是非とも指摘してくださいませ!
最後まで、読んでいただきありがとうございました!!
-メニエール病・突発性難聴- 耳が聞こえないし目も回る!
こんにちは!
めまいの投稿もこれで7回目になりました。
めまいで病院を受診される方は、頭痛ほどではないものの、とても多く、また若い方もたくさんいらっしゃいます。
めまい診療を苦手に感じている医師も多いので、皆さん自身のためにも、めまいという症状を知っていただければ嬉しいです!
これまでは、めまいの中でも、脳神経内科に受診される病気を取り上げてきました。
今回は、脳神経内科に受診することは少ないものの、めまいの原因として重要な2つの病気を取り上げたいと思います。
1つ目がメニエール病、2つ目が突発性難聴です。
両方とも、耳鼻咽喉科を受診されることの多い病気で、脳神経内科医の私としては、偉そうに紹介できないので、簡単な紹介にとどめたいと思います。
メニエール病
おそらく、めまいといったら一番有名な病気だと思います。
でもめまいの中での頻度であれば、5%もないのではないでしょうか。結構珍しい病気です。
内耳って?
そもそも、耳は、外側から(耳たぶ側かから)、外耳(がいじ)-中耳(ちゅうじ)-内耳(ないじ)と3つの領域に分かれています。
内耳は、耳の一番奥に存在する場所ですが、さらに前庭と蝸牛(かぎゅう)と呼ばれる場所に分類されています。
前庭はこれまでの投稿でも登場していますが、体の位置を感じる場所です。そして、前庭には、三半規管と耳石器の2種類が存在しました。
詳しくは、以下の投稿もご参照くださいませ。
neurology-kanazawa.hatenablog.jp
一方、蝸牛は、音を聞くための場所です。
カタツムリの形をしていることから、"蝸牛"という名前がついています。
内リンパ水腫:内耳にリンパ液が溜まってくる状態
さて、前庭のお話の中で、三半規管の中にリンパ液と呼ばれる液体が入っているということを紹介しました。
このリンパ液は前庭だけでなく、蝸牛にも入っています。
リンパ液に限らず、体の中に蓄えられている水分は、新しいものを作っては古いものを捨てていくことで、きれいに保たれています。
このようなリンパ液の流れが滞り、蝸牛や前庭で、リンパ液パンパンに溜まってしまっている状態があるのですが、"内リンパ水腫"と呼ばれます。
そして、内リンパ水腫により諸症状が出てくる病気が、メニエール病です。
内リンパ水腫の原因は不明なことが多いですが、最近では、"アクアポリン"といって、水の出し入れに関係する"扉"の異常が指摘されています。
メニエール病の特徴
メニエール病が前庭神経炎と異なる点は、なんといっても"難聴"が存在することです。
内リンパ水腫は前庭だけでなく、蝸牛にも生じます。
蝸牛は音を聞くための場所であるため、蝸牛障害は難聴を生じることになります。
※なお、難聴の出ない"前庭型メニエール病"も存在するようです。
次に大切な特徴は"眼振の出方"です。
めまいの診療にとって一番大切なのは、前庭神経炎でもBPPVでも紹介した、"眼振"というものです。
前庭神経炎の場合、左右両方に存在する前庭の機能のうち、片方が障害されると、障害されていない方向に目が震える(=健側向き)という、方向一定性眼振が特徴的でした。
よろしければ、以下もご参照くださいませ。
neurology-kanazawa.hatenablog.jp
メニエール病の場合も方向一定性眼振が出現します。
ただし、前庭神経炎と異なる特徴があります。
それは、発症早期の場合、障害されている前庭方向に向かう(=患側向き)眼振が見られるという点です。
しかし、経過とともに、前庭神経炎と同じように、健側向きの方向一定性眼振に変化していきます。
ちなみに、めまいの持続時間は数時間ないしは1日以内が多いです。
めまい持続が短い順に並べると、以下のようになります。
めまい持続時間がわかれば、めまいの診断が行いやすくなるかもしれませんね。
①良性発作性頭位めまい症(数分)
②片頭痛性めまい(数分~数時間)
③メニエール病(数時間~1日程度)
④前庭神経炎(長くて2週間程度)
メニエール病の治療
ここは本当に、脳神経内科医の私が偉そうに話せる内容ではありません。
基本的には、リンパ液を外に追い出す治療を行います。
そのために、浸透圧性利尿薬という種類の薬を使います。
点滴であればグリセロール、飲み薬であればイソソルビドという薬です。
ただし、手術などの治療を必要とすることもあるため、そして聴力が戻らなくなり得る病気でもあるため、治療のほとんどは、耳鼻咽喉科の専門家にすべてお願いすることが常となっています...
突発性難聴
メニエール病より、さらに簡単な紹介にとどめます(すいません...)。
名前の通り、"耳が突然に聞こえなくなる病気"です。
原因はストレスだったり、血流の問題だったり、感染症だったりするようですが、明確なことは分かっていないようです。
難聴だけかと思いきや、実際は半分弱で、めまいも合併します。
なので、めまい合併の突発性難聴は、時にメニエール病と類似するようです。
ですが眼振の方向は、初期から"健側向き"の方向一定性眼振です。
急性期の治療はステロイドと呼ばれる種類の薬を用います。
今回のまとめ
①メニエール病と突発性難聴は、難聴とめまいを生じる病気です
②基本的には、耳鼻咽喉科で診療してもらいましょう!
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なんだか、モヤっとした内容になってしまいました。申し訳ないです...
ただ、めまいの話をしているのに、メニエール病が一度も出てこないのは何だかな...と思い、簡単ではありますが紹介してみました。
次回は、最も怖い"脳"が関係するめまいについて紹介しようと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
-片頭痛性めまい- 頭痛はないけどめまいだけ... 感覚過敏性があるめまいって?
東京では桜が開花したようで、いよいよ春、という感じになってきましたね!
とても過ごしやすい季節になりますが、季節の変わり目は体調を崩しやすい時期... 皆さま、ご自愛くださいませ!
さて、そんな季節の変わり目は、脳神経内科の病気に悩まれる方も増えてしまう時期です。先日に紹介いたしました、片頭痛もやはり季節の変わり目に要注意な病気だったりします。
そんな片頭痛に関係する"めまい"について、紹介したいと思います。
片頭痛とめまいの関係
片頭痛とめまいの関係... おそらく医師であっても、馴染みがないかもしれません。
ですが、めまいの患者さんを診療していると、片頭痛との関連を否定できないめまいの方は、結構いらっしゃいます。
片頭痛のようなしっかりとした診断基準はありませんが、片頭痛で使用する予防薬を使用することで、めまいを生じる頻度が減る方がいるのは確実です。
"片頭痛性めまい"と呼ばれることもあるので、当ブログではこの呼称を用いようと思います。
ちゃんと統計を取っているわけではないので、正確なことは言えませんが、前庭神経炎よりは少ないけど、その半分くらいはいらっしゃるのでは??という印象があります。結構多いです!
私自身、めまいの方を診療する際には、まずは"①良性発作性頭位めまい症・②前庭神経炎・③片頭痛性めまい"の3疾患の可能性は常に考えるようにしています。
片頭痛性めまいの特徴
片頭痛を患っている方のうち30-40%程度でめまいを自覚され、このような方は片頭痛の予防治療を行うことでめまいも改善します。
問題なのは、頭痛はないのに、めまいだけがある。そして、片頭痛の特徴だけを持っている。このような方です。
なので、めまいがある場合、"めまいの事ばかり考えずに片頭痛のことも一緒に考える"、ということが大切になります。
さて、片頭痛の特徴とはどのようなものでしょうか。
それは以前の投稿で強調したことですが、"感覚過敏性がある"ということ!
よろしければ、以下もご参照くださいませ。
neurology-kanazawa.hatenablog.jp
感覚過敏性とは、"光に過敏"とか"音に過敏"とか、という意味です。
そのために、感覚過敏性がある片頭痛の患者さんは、頭痛発作の時には、"暗くて静かな"場所を好まれます。
他にも、
①家族に片頭痛の人がいる
②乗り物酔いが強いと
③人ごみが苦手
④頭痛の前に前兆がある
なども片頭痛の特徴ですが、これらも、片頭痛性めまいを疑う要素になり得ます。
片頭痛性めまいの症状
良性発作性頭位めまい症(BPPV)の場合、”寝ている状態から起き上がると、めまいがして数分で収まるという症状”が特徴的でした。
よろしければ、以下もご参照くださいませ。
neurology-kanazawa.hatenablog.jp
片頭痛性めまいも、BPPVほどではありませんが、頭を動かすことでめまいが、"発作的に"生じるという点では似ています。
確定的な原因はありませんが、おそらくは片頭痛特有の"感覚過敏性"のために、回転運動の感覚を感じる場所である三半規管の過敏性を持っているということ、そして、ちょっとした頭の動きを過敏に感じてしまう結果が、めまいの発症につながっているのではと思われます。
BPPVと片頭痛性めまいの相違点の一つは、"めまいの感じ方"かもしれません。
BPPVのめまいは、その大部分は"ぐるぐる回る"めまい(=回転性めまい)である一方、片頭痛性めまいは、ふらふらするめまい(=浮動性めまい)を訴える方が、回転性めまいより多くいらっしゃいます。
また、めまいの持続時間も、BPPVに比べ片頭痛性めまいの方が長い、というか、"めまいの時間"と"そうでない時間"との境目が曖昧という印象もあります。
めまい発作が生じているときであれば、BPPVの検査で行うように、"横になって頭を回転させることで生じる眼振"があるかどうかを調べれば診断できるかもしれませんが、診察時に、めまいを生じていないことも少なくありません。
と、こんな感じで、診察しただけでは、"絶対にBPPVではない"と否定するのが難しい場合も多いです。
そのため、"治療的診断"といって、"片頭痛性めまいであれば改善するはず"という薬を試験的に使ってみて、効果があったら確定診断するということも多いです。
片頭痛性めまいの治療
BPPVと似ているといっても、めまい体操は無意味です。
では、"片頭痛が原因ならば"ということで、片頭痛を改善させるためのトリプタン製剤という薬は効くのか、というと、片頭痛性めまいに対して良く効いたと感じることは、今のところありません。
使用していて、唯一意味があると感じる薬は、ロメリジン(ミグシス)という薬です。
ロメリジンは片頭痛の予防のために使用する薬です。
めまいが生じた時に使用するのではなく、片頭痛と同様に、めまいが起きにくくする薬です。
他にも片頭痛の予防薬として、抗うつ薬や抗てんかん薬もあります。
抗うつ薬は若干有効ですが、それでもロメリジンに比べると効果が小さいと考えられます。
また、ほとんどの場合ロメリジンである程度の効果があるため、片頭痛性めまいに対して無理して抗てんかん薬を使用したことがありません。そのため私自身としては、抗てんかん薬による片頭痛性めまいの抑制効果は不明です。
今回のまとめ
①片頭痛に伴うめまい=片頭痛性めまいは、意外と多い!
②片頭痛としての"頭痛"を伴わない、片頭痛性めまいもある
③片頭痛性めまいを疑うカギは、"感覚過敏性"!
④片頭痛性めまいは予防薬で治療するが、めまいに対する特効薬はない
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いかがでしたか?
あまり聞きなれないと思われる、片頭痛性めまいについて紹介しました。
とにかく強調しているように、知られていなくても以外と多い病気です。
今回を機会に、是非とも知っておいていただければ幸いです!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!
-前庭神経炎- とても強いめまい! けど、とても多い病気です
当ブログにお越しいただき、ありがとうございます。
めまいをテーマに投稿していますが、いかがでしょうか。
"めまいは難しい"と感じる方が多いようですが、そうでもない、ということが伝わればいいな...と思っています!
さて今回は、めまいを訴えて病院を受診される方のうち、2番目に多い病気を紹介しようと思います。
前庭神経炎
病名は、あまりなじみがないかもしれませんが、とても多くの方が受診されます。
メニエール病という病気はメジャーかもしれません。しかしメニエール病は実際のところ、珍しい病気です。
メニエール病よりめまいの持続が長く、そしてメニエール病のようにめまいが強い病気、それが"前庭神経炎"です。
前庭神経炎の原因
病名の通り、"前庭神経"という場所に"炎症"が起こっている病気です。
とにかく、突然めまいが生じるため、脳梗塞と間違われることも多くあります。
炎症の原因として、ウイルス感染の可能性が指摘されています。
確かに、風邪をひいた後とか、お腹を壊した後に、しばらくしてからめまいを生じた、という方が多くいらっしゃいます。
しかし、発症の原因は完全に解明されていません。
”前庭神経”という名前は、以前の投稿でも紹介しましたので、よろしければご参照くださいませ。
neurology-kanazawa.hatenablog.jp
簡単にいえば、前庭という場所が、体の位置を感じる場所として機能していて、その前庭で得た情報を、脳に伝える電線のような働きの神経、それが前庭神経です。
前庭神経炎は、前庭神経に炎症が起きることで、前庭神経の働きが障害されるというものです。
例えば、巷に存在する電線に火事が起きたら、電気の供給がストップして、停電してしまいます!そんなイメージを持っていただければと思います。
前庭神経は、前庭に含まれる、三半規管・耳石器の両方の情報を脳へ伝えます。そして、前庭は左右に1か所ずつのみ存在します。
そのため、前庭神経炎が起きるということは、左右どちらかの前庭の機能が完全にストップしてしまうということです。
良性発作性頭位めまい症の場合は、耳石が三半規管をかき回したときだけ、めまいが起きるというものでした(よろしければ以下の記事もご参照くださいませ)。
neurology-kanazawa.hatenablog.jp
しかし、前庭神経炎の場合は、常に片方の前庭機能が障害されているため、常にめまいを生じてしまいます!!炎症が自然に鎮火するまでめまいは収まりません。
これはかなり大変な状態ではないでしょうか。
前庭神経炎で目が震える(眼振)
良性発作性頭位めまい症の記事で、ほんの少しだけ"眼振"という言葉にも触れました。
これは、めまいがあるとき(BPPVでは頭を動かしたとき)に、目玉がプルプル震えている、というものでした。
前庭神経炎の場合は、ずっとめまいがあるので、眼振もずっとあります。
実際、前庭神経炎という診断を下す場合に、”眼振"の存在が最も大切になります。
ここで、簡単ではありますが、前庭神経炎で、どうして"眼振"を生じるのか、ということについて触れておこうと思います。
そもそも、前庭という場所が働くと、目玉を反対側に(例えば右側の前庭が働くと左側へ)目玉を向けようとする働きがあります。
通常は、左右とも前庭が正常に働くため、目玉は安定した位置取りをしているため、目玉が震えることはありません。
しかし、例えば右側の前庭の働きが完全になくなった場合、左側の前庭しか働かなくなってしまいます。
まっすぐ前を向いているときであっても、左側の前庭は、目玉を右側に向けようとします。つまり、障害されている前庭の方に目玉が向くようになります。
まっすぐ向きたいに、これは良くありません。でも、右側の前庭は働いていません...
目玉は前庭だけで動かしているわけではないので、他の場所が働いて、なんとか目玉を左側に戻そうとしますが、前庭のようにしっかりと働くわけではありません。
この、"なんとか左側に戻そうとする"目の動きが、"眼振"として現れます。
そのため、右側の前庭が障害されたときは左方向へ、左側の前庭が障害されたときは右方向へ"ぴくぴくする"眼振が出現するのです。
眼振で頭の病気がわかる?
前庭神経炎は常に片方の前庭機能が障害されているため、常に眼振が生じます。そして、前庭機能の障害は、常にどちらかだけなので、左右どちらかだけに向かうような眼振を認めることとなります。
このような眼振のことを"方向一定性眼振"と呼んでいます。
これは、左を向いても右を向いても、常に眼振が左右どちらかの方向に向かって、一定して"ぴくぴく震えている"ことを意味しています。
この方向一定性眼振に対して、"注視誘発眼振"という言葉も存在します。
今後紹介したいと思いますが、注視誘発眼振は、脳に何か病気があることのサインになります。
そのため、めまいを訴えて病院を受診された方を診察したときに、まずは眼振を観察します。そして、注視誘発眼振が確認されたときは、速やかに頭の検査を行うこととなります。
前庭神経炎の治療
前庭神経炎は、良性発作性頭位めまい症のように、めまい体操で治療することはできません。そして、少なくとも発症してから数日間はめまいが確実に継続します。
特にめまいが強い期間は、点滴治療を続けることが多くあります。
"これが正解"という確実な方法はありませんが、臨床の現場で有効性があると感じるのは、以下の2つです。
①ジアゼパム(セルシン)
多くは、けいれんの治療のために使われる薬ですが、強いめまいがある場合に、最も有効と感じる薬です。とにかく、めまいが強くてどうしようもないときに使用します。
ただし、"呼吸抑制作用"といって、呼吸が弱くなってしまう作用があるため、投薬後は、呼吸状態の確認が必須です。
②ヒドロキシジン(アタラックスP)
抗ヒスタミン薬と呼ばれる、元々はアレルギーを抑えるための薬です。
最近のアレルギーの薬(花粉症の薬など)は眠気があまりない薬が多い一方で、ヒドロキシジンは初期の抗ヒスタミン薬のため、眠気が問題となります。
ジアゼパムに比べると、めまい改善作用は弱いです。
しかし、ジアゼパムのような呼吸抑制作用をさほど気にする必要はない点や、点滴ボトルの中に混ぜてゆっくりと投薬出来る点から、むしろジアゼパムよりも多く使っている薬です。
特に、めまいを生じてから当初数日間は定期的に使用しています。
③メトクロプラミド(プリンペラン)
めまいがあると、とにかく吐き気を強く感じます。吐き気が強い場合にアタラックスP
と一緒に使用する薬です。
飲み薬もありますが、食べても嘔吐してしまう可能性が高い状態ですので、注射薬として使用することが多いです。
他にも、めまいが軽くなってきたら、内服薬として抗ヒスタミン薬やベタヒスチン(メリスロン)などを使います。
このような治療を行いますが、とにかく当初数日間は、歩けないほどのめまいという方が多く、入院もしばしば必要となります。
また、めまいがある程度落ち着くまでは1-2週間ほどかかる場合も多いです。
今回のまとめ
①前庭神経炎は、左右どちらかの前庭の機能が突然障害される病気です
②方向一定性眼振(どこを向いても目が震える)が特徴的です
③めまい体操は無効、点滴治療が必要です
④めまいは長くて2週間続くこともあり、しばしば入院が必要です
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いかがでしたか?
前庭神経炎という病気は、とにかくあまり知られていない一方で、多くの方が発症される病気です。突然生じためまいの場合、この病気の可能性は高いです。
前庭神経炎は、突如強いめまいが起こる病気のため、脳梗塞と勘違いされやすいです。確かに、前庭神経炎に酷似する脳梗塞もあり、このような状態を"偽性"前庭神経炎と呼んでいますが、発症はかなり稀です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
-良性発作性頭位めまい症- めまいの王様 BPPV
当ブログにお越しいただきありがとうございます。
今回も、前回からの続きでめまいを紹介します。
前回は、めまいの中でもちょっと難しいお話、"前庭"について紹介しました。
簡単に復習すると...
①耳にある、前庭が体の位置を把握する
②前庭は、半規管と耳石器(卵形のう・球形のう)に分類される
③半規管は回転を、耳石器は直線的な動きを感じている
④前庭からの位置情報は、前庭神経を通じて脳に送られる
今回は、特に脳神経内科で扱うことの多い、前庭に関係する病気の1つを紹介します。
[:contents]
良性発作性頭位めまい症(BPPV)
良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、めまいを生じる病気のうち最多です。
原因は、卵形のうからこぼれ落ちた耳石が、半規管に入ってしまうこと。
体が回転すると、半規管の中のリンパ液も動き、リンパ液の流れを感じ取ることで、体の動きの情報を把握する、という機能でした。
純粋なリンパ液だけであれば、半規管内の分布は均一であるため、すべてのリンパ液は同じ方向に流れます。
しかし、半規管の中に耳石が入ってしまったときは、耳石がリンパ液を攪拌してしまいます。そのため、前庭の機能が狂ってしまいます。
このような病気であるため、BPPVは頭を動かしたときだけ、"発作的に"めまいが、生じるため、"発作性頭位めまい症"と呼ばれています。
頭を動かしたときには、リンパ液が異常に攪拌されるためめまいが生じますが、耳石はリンパ液より重たいため、そのうち半規管の底の部分にたどり着いて攪拌は収まります。
そうするとめまいは消失します。
耳石が半規管の底の部分にたどり着くのにかかる時間は数分程度。そのため、めまいも数分で落ち着きます。しかし、頭を動かすとまた、めまいが再燃してしまいます。
耳石が半規管に入り込むって?
耳石は、寝ているときに下になる半規管に落ちていきやすい傾向があります。
ところで、半規管は、前半規管・後半規管・外側半規管の3種類が存在します。だから、併せて三半規管と呼ばれています。
前半規管だけは、前を向いている半規管であるため、寝た時は上を向きますので、耳石が入り込みにくい構造をしています。
しかし、後半規管と外側半規管は、輪が下を向きます。そのため、耳石は後半規管と外側半規管に入ってしまうことが多いです。そして、この中でも、最も耳石が入りやすいのが、後半規管です(下手な絵で恐縮ですが、下のような状態になっているのため、後半規管へ石が入り込みやすいのはイメージしやすいのではないでしょうか?)。
そして、朝起きた時に、頭が動かされることで、半規管内のリンパ液が突如攪拌されることで、いきなりめまいを生じることになります。
BPPVのめまいは、体操で治す!
このような病気であるため、耳石を半規管から追い出してしまえば、めまいが治るという考え方が成り立ちます。
耳石がどの半規管に入ったかで、どのように耳石を追い出すかを考えることになります。一番多い、後半規管型のBPPVの場合、次のような方法で診察します。
①座っている状態から寝かせる。このとき頭だけベッドの外に落ちるようにする。
②頭が下に垂れ下がっている状態になる(懸垂頭位といいます)
③頭を右か左のどちらかに向ける
こんなことをした時に、目玉を観察します。
この時に、右側の後半規管に耳石が落ちていると、頭を右側に向けたときに、目玉がぴくぴく動いている現象が確認できます。これを"眼振(がんしん)"と言います。そして、この眼振を認めるときに、強いめまいが生じます。
さて、ここから治療をしていきます(めまい体操ともいわれています)。
ようは、めまいが生じる方向と逆に頭を回してあげれば、石がもとに戻るという寸法です。
右側の後半規管に耳石が入っていると仮定します。
すると、右下への懸垂頭位でめまいが生じているはずです。
そこで...
①頭の位置を左下への懸垂頭位に変更します。
②左腕が下になるように横向きに寝ます(顔は床を向いているようにします)
③ゆっくりと座った状態に戻ります。
このときに①~③の手順を行って後30秒程度は、そのままの姿勢を維持するようにします。
ちなみに、このような"めまい体操"は、Epley法と呼ばれています。
他にも、Semont法やLempert法など、いろいろな"めまい体操"があります。
BPPVは、元に戻った耳石がまた半規管に入り込んでしまうことがあります。
そんなとき、特にSemont法は、自分ひとりでも出来るめまい体操で、簡単です。
方法は以下の通り。
①ベッドに腰掛けます
②耳石が浮いていると考えられる側と反対側(上記の場合は左側)を向きます。
③そのまま後頭部がベッドに着くように(上記の場合は右側へ)横になります。
④その後、一気に起き上がり、今度は前頭部がベッドに着くように(上記の場合は左側へ)横になります。
こんなことを繰り返します(もちろん耳石がどちらの半規管に入っているのか診断してからでないとできませんが)。
ただ、どのめまい体操も、"めまいを誘発"しますので、体操中に確実に吐き気が生じます。ゆっくりゆっくりと、またできれば近くに家族がいる状態で行った方が良いと思われます。
その他の治療
ただ、とにかく、はじめてのめまいの時は、パニックになるほど、ひどい吐き気もあります。そんな時に、上記のような"めまい体操"を行うことは時に拷問になるかもしれません。
そのため、救急外来では、ジアゼパム(セルシン)などの注射液で、めまい感を鎮める方法もあります
他にも、めまい感を楽にするために内服治療を行うこともあります。
たとえば、ジフェニドール(セファドール)やベタヒスチン(メリスロン)などを用います。
ただし、耳石が消えてなくなることはありません。お薬はあくまで、症状を楽にするだけであり、めまいを完全に治すことはできません。
今回のまとめ
①良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、めまいの原因として最多!
②BPPVの原因は、卵形のうから半規管は耳石が入ってしまうこと
③寝ているときに、半規管へ耳石が落ちやすい
④耳石を元の位置に戻すことでめまいが治療できる(めまい体操)
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いかがでしたか?
めまいになったときは、"めまい体操"なんて考え方は浮かんでこないかもしれません。時にはうごくこともできないかもしれません。
そのため、ひどければ他の人の助けを呼びましょう。
めまいは、とてもつらい症状ですが、一方で命にかかわることは多くありません。
とにかく、落ち着いて行動することが大切です!とても難しいことですが...
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
-前庭- めまいを語るうえで最も大切な場所とは?
当ブログにお越しいただき、ありがとうございます!
前回からのつづきで、今回も"めまい"のことを紹介していきます。
今回は、めまいを知るために、避けては通れない"前庭"のことをお話しします。
前庭(ぜんてい)とは
前庭は、耳にあります。
といっても、外から見えている"耳"ではなく、鼓膜よりもっと奥の方にあります。
耳にあるといっても、"音を聞く"という聴覚とは関係ありません。
前庭は、"体が今どのように動いているのか"、とか"体は今どのくらい傾いているのか"を感じ取るための場所です。
前庭は、さらに"三半規管"と"卵形のう・球形のう"に分かれます。
三半規管(さんはんきかん)
前庭という言葉は知らなくても、"三半規管"という言葉なら聞いたことがある、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
三半規管は、"半規管"という場所が3つあることから、名付けられています。
半規管はドーナツのような形の管になっています。その管の中にはリンパ液と呼ばれる液体がたっぷり詰まっています。体が回転したときには半規管も一緒に動き、そして中のリンパ液も動きます。
※実際には、体の回転方向とは逆方向にリンパ液が動きます。
半規管の中には、このリンパ液の動きを感じとるためのセンサーが存在しています。このセンサーが刺激されたときに、体は回転を感じることができます。
"三次元"という言葉の通り、回転を感じるために、半規管を3方向に用意しています。そして、それぞれの半規管がどの程度刺激されたかを統合して初めて、正確な回転方向を感じることができます。このことから、3つの半規管という意味で”三半規管"という言葉が使われます。
球形のう・卵形のう
"のう”とは"袋という意味です。
つまり、球形のうは"球の形のような袋"、卵形のうは"卵の形のような袋"という意味で名づけられています。
この2つの袋は、体が上下とか前後など、体がまっすぐに動いたときに働く前庭です。
三半規管と同様に袋の中はリンパ液で満たされています。
球形のうと卵形のうは、体の動きを感じるセンサーに"耳石(じせき)"とよばれる物質を使っています。この石が動くことで、センサーが刺激され、体は、上下に動いたとか、前後に動いたといった、まっすぐな動きを感じることができます。
なお、この耳石が使われている場所ということから、球形のうと卵形のうは合わせて"耳石器(じせきき)と呼ばれます。
前庭で読み取った情報は脳へ!
このようにして、三半規管では3方向の回転を、球形のう・卵形のうでは上下・前後方向の動きを感じ取っています。
これらの情報が"前庭神経"とよばれる細い神経を通って脳に伝えられます。
脳では送られてきた情報を全部統合することで正確に、体がどれだけ動いたのかということを刻々と読み取っているのです。
耳石が取れることで起こる病気
ところで球形のうは三半規管とつながっています。
そして、耳石が何かの拍子にセンサーからぽろっと取れてしまうことがあります。
この時に、耳石が三半規管の中に入り込んでしまうことがあります。
三半規管に入り込んでしまった耳石は、三半規管のリンパ液を攪拌してしまうことになります。そうなると、三半規管内では正確なリンパ液の流れを読み取ることができません。
結果、三半規管の機能が障害されてしまいます。
このような病気が、"良性発作性頭位変換性めまい症(BPPV)"と呼ばれるもので、めまいの原因として最も多いとされています。
BPPVについては、とても患者さんの数が多い病気なので、後日改めて紹介する予定です。
今回のまとめ
耳にある"前庭"が体の動きを感じています
前庭には三半規管と球形のう・卵形のうがあります
三半規管は回転を、球形のう・卵形のうはまっすぐな運動を感じます
球形のうの耳石が三半規管に入ってしまう病気はめまいの原因として最多!
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今回は、めまいで最も難しいと感じることが多い内容かもしれません。
とりあえず、まとめに記した内容だけでも気に留めていただければ嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
なんで、めまいを感じるの?
当ブログを見ていただき、ありがとうございます!
前回から、難しいパーキンソン病の話を少し休んで、めまいのお話を始めてみました。
まずは、めまいとは何か、といった内容でしたが、いかがでしたか?
とりあえずは、"意識が飛びそうになる"、とか"目の前が白くなる"といった症状はめまいではない!ということを押さえていただければ大丈夫かと思います。
さて、今回は、めまいがなぜ起こるのか、ということを少し紹介しようと思います。
めまいはなぜ生じるの?
"ぐるぐる回る"という症状がめまいな訳ですが、実際には自分の周りが回っている訳ではありません。
”ふらふらする"という症状もめまいですが、別に地震が起きている訳でもありません。
このような"めまい"という症状は、実際には生じていない現象を、さも生じているように感じてしまう錯覚の一つと言えます。
では、なぜめまいが起きるのでしょうか。
一言でいえば、"バランスを保つ場所の不具合"です。
歩いているときでも走っているときでも、またエレベーターに乗っているときも電車に乗っているときも、人はバランスをちょうどよい感じに保っています。
このバランスは、体のいろいろな場所の機能で、ちょうどよい感じに保たれていますが、どこか1か所の機能がおかしくなると、調節が崩れてしまい、よってバランスが保たれなくなってしまいます!
バランスを保つために必要な場所
バランスを保つために必要な場所は、全部で4か所あります。
①目
②耳
③深部感覚
④脳
①目(視覚情報)
動いているとき、もちろん目で自分の位置を常に確認します。
目から入る情報、つまり"視覚情報"は、バランスを保つための重要な情報の一つです。
例えば、車酔いがしやすい人が、自動車に乗りながらスマホをいじっていたら、なお車酔いしやすくなる、ということ、あるじゃないですか。
これは体は、動いているのを感じているけど、目が自動車の動きに対応が出来ていないため、バランス情報がうまく処理できていないためです。
②耳(前庭情報)
"耳"といっても、音は関係ありません!耳には、"音を聞く"という機能の他に、バランスに関係する機能も持っています。詳しいことは別の機会に紹介しようと思いますが、耳の中には"前庭(ぜんてい)”といって、"回転している"とか"上昇・下降している"とか"前後に進んでいる"といた、体の位置を認識する場所があります。
なお、前庭はさらに、"回転を感じる"三半規管と、"上下・前後方向の動きを感じる"卵形のう・球形のうに分類されます。
例えば、ぐるぐる回るタイプの遊園地の乗り物に乗った後は、目が回ります。スケート選手は大丈夫かもしれませんが、素人がフィギュアスケートのような回転に晒されたら、やはり目が回ると思います。これは、回転という運動に、個々人の前庭機能が追い付いていないためです。
③深部感覚
ちょっと難しいことばでしょうか。"触った"とか"熱い・冷たい"という感覚のことは"表在感覚"と言います。
それの反対言葉で"深部感覚"と呼ばれるものがあります。
例えば、足の裏にどのくらいの"圧"がかかっているのかが、これに当たります。
バランスをとるときに、左足には圧がかかるけど、右足は地面に触れているだけになるとか... 地面に足をくっつけていても、その"圧のかかり方"は様々です。
その圧のかかり方で、人はバランスをとっているため、深部感覚に異常を来すと、"ふらつき感"というめまいが生じることになります。
④脳
そして、①~③の情報を統合している場所が脳です。脳の中でも、下の方に存在する"脳幹"とか"小脳"と呼ばれる場所が、特にバランスに関係しています。
とにかく、バランスの"中枢部分"であるため、脳に異常を生じた時のめまいを"中枢性めまい"といったりもします。
逆に、①~③の機能に問題があるときのめまいを、"末梢性めまい"と呼んでいます。
今回のまとめ
めまいは、バランスを保つ場所の不具合で生じる錯覚です
バランスを保つために重要な場所は4つ!
①目、②耳、③深部感覚、④脳
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いかがでしたか?
今回は、めまいがなぜ生じるのか、その基礎的な部分を紹介してみました。
ちょっと難しい話ではありますが、この内容を知っていることで、めまいという現象が格段に分かりやすくなります!
次回からちょっとずつ、めまいをもう少し掘り下げていこうと思います。
そして、パーキンソン病ネタも、忘れたころに挟んでいこうかと思います。
今回も読んでいただき、ありがとうございました!
パーキンソン病はどのように治療するのか?
今後は、パーキンソン病をどのように治療するのか、ということを紹介しようと思っています。
ただ、その前に、ぜひとも知っておいてほしい基礎知識を紹介したいと思います。
今回紹介する内容は、パーキンソン病以外の病気にも共通することが多いかもしれません。
それでは、よろしくお願いします!
パーキンソン病と黒質
まずは、以前の記事でも紹介した、"黒質"について、再登場してもらいます。
黒質とは?
人は、無数の神経細胞がくっつき合って形成される神経のネットワーク(神経回路)が筋肉に命令をすることによって体を動かしています。
"筋肉をとにかく動かせばOK"という神経回路と、"もう少し細かく丁寧に動かそうよ"という神経回路の2種類が存在するのですが、前者を"錐体路(すいたいろ)"、後者を"錐体外路(すいたいがいろ)"と呼んでいます。
このうち、錐体外路とよばれる神経ネットワークの一員となっているのが、黒質と呼ばれる場所です。
そのため、黒質が傷んでしまうと、細かな動作が出来なくなってしまいます。また動作もたどたどしくなってしまいます。
その結果、パーキンソン症状としての動作緩慢などが出現するとされています。
この内容の中で、まず"神経のネットワーク"というものについて、もう少し詳しくお話しします。
神経細胞のつながり-シナプス結合-
人の体の中には、"中枢神経"といって特に大事な部分だけでも1000億個以上の神経細胞が存在します。それらの神経細胞はお互いに、無数のつながりをもって、お互いに情報をやり取りしています。
その"つながっている部分"のことは、"シナプス結合"と呼ばれています。
なお”結合"といっても完全にくっ付いている訳ではありません。
例えば、"A"という神経細胞が、"B"という神経細胞に情報を伝えようとしたとします。
手紙とポストのおはなし -神経伝達物質と受容体-
その時、A細胞からは、"神経伝達物質"という手紙のようなものが細胞外へ放出されます。この手紙には、A細胞がB細胞に伝えたい情報が詰まっています。
そのような手紙は、お隣にあるB細胞のポストに入ります。ちなみに、このポストは特定の、1種類の手紙しか受け付けることが出来ません。ポストのことは"受容体(じゅようたい)"と呼ばれていますが、例えば、"アセチルコリン"という手紙が入るポストのことは"アセチルコリン受容体"と呼ばれます。
さて、ポストに手紙が入ったことでB細胞は瞬時に情報を読み取ります。B細胞は情報を次の伝達先に伝えることになりますが、情報が書かれていた手紙はB細胞には不要となってしまいます。
すると、いらなくなった手紙は、B細胞の中には入れずに、外に投げ捨てられてしまいます。
投げ捨てられた手紙は、ゴミとして分解されることもありますが、大事な手紙なのでA細胞が(生きていれば...)取り込んで再利用することもあります。
このようなことを一日に何回も何回も繰り返すことで神経同士が情報交換をしています。そして、今回の主役である黒質にある神経細胞も、もちろん同じです。
黒質の神経伝達物質=ドパミン
黒質にある神経細胞が出す手紙(=神経伝達物質)は、"ドパミン"と呼ばれています。そして、ドパミンを受け取るポストは"ドパミン受容体"と呼ばれています。
黒質の神経細胞は、体の動きをスムーズにするための指示書として、ドパミンを出すのですが、この細胞がどんどん死んでいってしまったらどうなるでしょうか。
すると、ドパミンが出てこなくなります。結果、体をスムーズに動かす指示が出てこないために、動作が遅くなり、関節も硬くなります。
パーキンソン病の治療(概論)
では、パーキンソン病をよくするために、どのような治療を行えばよいのでしょうか。
最優先は、"ドパミン"を増やすことです。
しかし、前回の投稿で紹介したように、パーキンソン病は神経変性疾患であるため、細胞は徐々に死滅していってしまいます。そのため、日に日にドパミンは減ります。
neurology-kanazawa.hatenablog.jp
よって、ドパミンは外から補充することになります。その薬が、レボドパ製剤と呼ばれる薬です。
ドパミンが"ずっと受容体に入っていてくれれば良いのでは"、という考え方もあります。この考え方のもと、"ドパミン受容体作動薬"と呼ばれる薬があります。この薬は、ドパミンに似た形なんですが、受容体から捨てられにくくする形に仕立てられています
。そのため、一回受容体に入ったら長時間効き続けることとなります。
他には、受容体の外に捨てられた"ドパミン"を簡単に分解させないようにする治療方法もあります。このような治療薬のことは"酵素阻害薬"とよばれます。ちなみに、酵素とは、ドパミンを分解する物質のことで、この物質の働きを押さえつければ、ドパミンが分解されず、再び神経伝達物質として働くことが出来るようになります。
まとめると次のようになります。これらがパーキンソン病の主体となる治療方法です。
①レボドパ製剤=ドパミンを補充する
②ドパミン受容体作動薬=ドパミンと似た形の薬で効きを長くする
③酵素阻害薬=ドパミンの分解を抑える
パーキンソン病の治療は他にもたくさんあります。
飲み薬以外に、手術を行うこともあります。
個々人の症状や進行度合いに応じて、治療をオーダーメイドで決めていくのです!
今回のまとめ
①パーキンソン病が黒質の神経細胞がどんどん死んでいく病気
②黒質の神経細胞は"ドパミン"という手紙を出して体の動きを調節
③パーキンソン病の治療はドパミンを補充したり、その手助けをしたりさまざま
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さて、ちょっと中身が濃かったかもしれませんがいかがでしたか?
今回は、パーキンソン病に限っての紹介でしたが、内容は他の病気でも通じるところが多くあると思います。参考にしていただければ幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
-神経変性疾患- 細胞がどんどん死んでいく...という話
今回は少し難しい話、神経変性疾患について紹介します。
医者も苦手な人が多い、この神経変性疾患...
でも、大体の内容を理解すれば、パーキンソン病をはじめ、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症といった、難しい病気も分かりやすくなります。
神経変性疾患について
いらなくなったゴミは捨てなくてはいけません!
人間は、食事をすることで栄養を摂取したのちに、必要のないものは排泄物(尿や便)として外に追い出しています。
人間の体は、60兆個ともよばれる細胞が集まってできていますが、細胞レベルでも同じような"栄養摂取-排泄"の現象が日々起こっています。
つまり、細胞そのものが生きていくために必要な栄養を取り込みますが、必要のないものは細胞の外に追い出しているのです。
一つ一つの細胞が、皆さんの家であると考えてみます。すると、必要なものを買い込んでくるのは良いですが、ゴミが確実に出てきます。
このゴミを捨てなければゴミ屋敷が出来てしまいます。そのまま放置しておくと、寝る場所もなくなってしまい、仕舞には住むことも出来なくなってしまいます。家の場合は、住人が居なくなったら空き家になるだけです。しかし細胞の場合はそうもいきません。
この“必要ないもの”が、外に追い出されずに細胞内にたまっていってしまうと、その細胞は徐々に傷んでいって、やがては細胞は死に至ってしまいます。
この"必要ないもの"が、何らかの原因で、神経細胞の中で作られ続けていく病気が、神経変性疾患という病気です。
神経変性疾患は、"必要ないもの"が、神経のどこで作られるか、また"必要のないもの"の種類によって数々の病気に分類されます。
パーキンソン病で溜まってしまう"必要ないものって?"
パーキンソン病も神経変性疾患の一つです。パーキンソン病の場合、脳にある"黒質(こくしつ)"という場所を中心に、"レビー小体"と呼ばれる物質が溜まっていくことで生じます。
黒質とは?
人は、無数の神経細胞がくっつき合って形成される神経のネットワーク(神経回路)が筋肉に命令をすることによって体を動かしています。
"筋肉をとにかく動かせばOK"という神経回路と、"もう少し細かく丁寧に動かそうよ"という神経回路の2種類が存在するのですが、前者を"錐体路(すいたいろ)"、後者を"錐体外路(すいたいがいろ)"と呼んでいます。
このうち、錐体外路とよばれる神経ネットワークの一員となっているのが、黒質と呼ばれる場所です。
そのため、黒質が傷んでしまうと、細かな動作が出来なくなってしまいます。また動作もたどたどしくなってしまいます。
その結果、パーキンソン症状としての動作緩慢などが出現するとされています。
さらに、レビー小体の主成分がαシヌクレインということも分かってきました。
αシヌクレインが溜まる病気はパーキンソン病以外にも存在します。そのため、αシヌクレインが溜まる病気を全て合わせて"シヌクレオパチー"と呼ぶ場合もあります。
レビー小体あるいはαシヌクレインが溜まる原因の全容はまだ分かっていません。
ただし"遺伝性パーキンソン病"といって、遺伝子に異常があることで発症するパーキンソン病も5-10%程度に存在しています。
パーキンソン病の症状は人それぞれだったりするので、今後の研究によって原因が徐々に分かってきたら、さらに細かく分類された病気になっていくのかもしれませんね。
今回のまとめ
①神経変性疾患とは、必要のないものが細胞に溜まることで、細胞がどんどん死んでいく病気のことです。
②神経変性疾患は、"必要のないもの"の種類や溜まる細胞によって多くの病気に分類されます。
③パーキンソン病は、レビー小体と呼ばれる"必要のないもの"が溜まることで発症すると考えられています。
書きながら、改めて思いましたが、やはり神経変性疾患は難しかったでしょうか...
少しでも理解していただければ嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!