脳神経内科医ときどき社労士

脳神経内科専門医として、頭痛や脳梗塞など身近な病気を紹介します。関係する社会保険のことも順次紹介予定!

-前庭神経炎- とても強いめまい! けど、とても多い病気です

当ブログにお越しいただき、ありがとうございます。

 

めまいをテーマに投稿していますが、いかがでしょうか。

 

"めまいは難しい"と感じる方が多いようですが、そうでもない、ということが伝わればいいな...と思っています!

 

さて今回は、めまいを訴えて病院を受診される方のうち、2番目に多い病気を紹介しようと思います。

 

 

 

前庭神経炎

 

病名は、あまりなじみがないかもしれませんが、とても多くの方が受診されます。

メニエール病という病気はメジャーかもしれません。しかしメニエール病は実際のところ、珍しい病気です。

メニエール病よりめまいの持続が長く、そしてメニエール病のようにめまいが強い病気、それが"前庭神経炎"です。

 

 

前庭神経炎の原因

病名の通り、"前庭神経"という場所に"炎症"が起こっている病気です。

とにかく、突然めまいが生じるため、脳梗塞と間違われることも多くあります。

 

 

炎症の原因として、ウイルス感染の可能性が指摘されています。

確かに、風邪をひいた後とか、お腹を壊した後に、しばらくしてからめまいを生じた、という方が多くいらっしゃいます。

しかし、発症の原因は完全に解明されていません。

 

 

”前庭神経”という名前は、以前の投稿でも紹介しましたので、よろしければご参照くださいませ。

 neurology-kanazawa.hatenablog.jp

 

簡単にいえば、前庭という場所が、体の位置を感じる場所として機能していて、その前庭で得た情報を、脳に伝える電線のような働きの神経、それが前庭神経です。

 

 

 

前庭神経炎は、前庭神経に炎症が起きることで、前庭神経の働きが障害されるというものです。

 

例えば、巷に存在する電線に火事が起きたら、電気の供給がストップして、停電してしまいます!そんなイメージを持っていただければと思います。

 

 

前庭神経は、前庭に含まれる、三半規管・耳石器の両方の情報を脳へ伝えます。そして、前庭は左右に1か所ずつのみ存在します。

 

そのため、前庭神経炎が起きるということは、左右どちらかの前庭の機能が完全にストップしてしまうということです。

 

 

 

良性発作性頭位めまい症の場合は、耳石が三半規管をかき回したときだけ、めまいが起きるというものでした(よろしければ以下の記事もご参照くださいませ)。

 

neurology-kanazawa.hatenablog.jp

 

 

しかし、前庭神経炎の場合は、常に片方の前庭機能が障害されているため、常にめまいを生じてしまいます!!炎症が自然に鎮火するまでめまいは収まりません。

 

これはかなり大変な状態ではないでしょうか。

 

 

 

前庭神経炎で目が震える(眼振) 

良性発作性頭位めまい症の記事で、ほんの少しだけ"眼振"という言葉にも触れました。

これは、めまいがあるとき(BPPVでは頭を動かしたとき)に、目玉がプルプル震えている、というものでした。

 

前庭神経炎の場合は、ずっとめまいがあるので、眼振もずっとあります。

実際、前庭神経炎という診断を下す場合に、”眼振"の存在が最も大切になります。

 

 

 

ここで、簡単ではありますが、前庭神経炎で、どうして"眼振"を生じるのか、ということについて触れておこうと思います。

 

 

そもそも、前庭という場所が働くと、目玉を反対側に(例えば右側の前庭が働くと左側へ)目玉を向けようとする働きがあります。

通常は、左右とも前庭が正常に働くため、目玉は安定した位置取りをしているため、目玉が震えることはありません。

しかし、例えば右側の前庭の働きが完全になくなった場合、左側の前庭しか働かなくなってしまいます。

まっすぐ前を向いているときであっても、左側の前庭は、目玉を右側に向けようとします。つまり、障害されている前庭の方に目玉が向くようになります。

まっすぐ向きたいに、これは良くありません。でも、右側の前庭は働いていません...

 

目玉は前庭だけで動かしているわけではないので、他の場所が働いて、なんとか目玉を左側に戻そうとしますが、前庭のようにしっかりと働くわけではありません。

この、"なんとか左側に戻そうとする"目の動きが、"眼振"として現れます。

 

そのため、右側の前庭が障害されたときは左方向へ、左側の前庭が障害されたときは右方向へ"ぴくぴくする"眼振が出現するのです。

 

 

 

眼振で頭の病気がわかる?

前庭神経炎は常に片方の前庭機能が障害されているため、常に眼振が生じます。そして、前庭機能の障害は、常にどちらかだけなので、左右どちらかだけに向かうような眼振を認めることとなります。

 

このような眼振のことを"方向一定性眼振"と呼んでいます。

これは、左を向いても右を向いても、常に眼振が左右どちらかの方向に向かって、一定して"ぴくぴく震えている"ことを意味しています。

 

この方向一定性眼振に対して、"注視誘発眼振"という言葉も存在します。

今後紹介したいと思いますが、注視誘発眼振は、脳に何か病気があることのサインになります。

そのため、めまいを訴えて病院を受診された方を診察したときに、まずは眼振を観察します。そして、注視誘発眼振が確認されたときは、速やかに頭の検査を行うこととなります。

 

 

 

前庭神経炎の治療

 前庭神経炎は、良性発作性頭位めまい症のように、めまい体操で治療することはできません。そして、少なくとも発症してから数日間はめまいが確実に継続します。

 

特にめまいが強い期間は、点滴治療を続けることが多くあります。

"これが正解"という確実な方法はありませんが、臨床の現場で有効性があると感じるのは、以下の2つです。

 

①ジアゼパム(セルシン)

多くは、けいれんの治療のために使われる薬ですが、強いめまいがある場合に、最も有効と感じる薬です。とにかく、めまいが強くてどうしようもないときに使用します。

ただし、"呼吸抑制作用"といって、呼吸が弱くなってしまう作用があるため、投薬後は、呼吸状態の確認が必須です。

 

②ヒドロキシジン(アタラックスP)

抗ヒスタミン薬と呼ばれる、元々はアレルギーを抑えるための薬です。

最近のアレルギーの薬(花粉症の薬など)は眠気があまりない薬が多い一方で、ヒドロキシジンは初期の抗ヒスタミン薬のため、眠気が問題となります。

 

ジアゼパムに比べると、めまい改善作用は弱いです。

しかし、ジアゼパムのような呼吸抑制作用をさほど気にする必要はない点や、点滴ボトルの中に混ぜてゆっくりと投薬出来る点から、むしろジアゼパムよりも多く使っている薬です。

特に、めまいを生じてから当初数日間は定期的に使用しています。

 

 

③メトクロプラミド(プリンペラン)

めまいがあると、とにかく吐き気を強く感じます。吐き気が強い場合にアタラックスP

と一緒に使用する薬です。

飲み薬もありますが、食べても嘔吐してしまう可能性が高い状態ですので、注射薬として使用することが多いです。

 

他にも、めまいが軽くなってきたら、内服薬として抗ヒスタミン薬やベタヒスチン(メリスロン)などを使います。

 

 

このような治療を行いますが、とにかく当初数日間は、歩けないほどのめまいという方が多く、入院もしばしば必要となります

また、めまいがある程度落ち着くまでは1-2週間ほどかかる場合も多いです。

 

 

今回のまとめ

①前庭神経炎は、左右どちらかの前庭の機能が突然障害される病気です

②方向一定性眼振(どこを向いても目が震える)が特徴的です

③めまい体操は無効、点滴治療が必要です

④めまいは長くて2週間続くこともあり、しばしば入院が必要です

 

 

**************************************

いかがでしたか?

前庭神経炎という病気は、とにかくあまり知られていない一方で、多くの方が発症される病気です。突然生じためまいの場合、この病気の可能性は高いです。

 

前庭神経炎は、突如強いめまいが起こる病気のため、脳梗塞と勘違いされやすいです。確かに、前庭神経炎に酷似する脳梗塞もあり、このような状態を"偽性"前庭神経炎と呼んでいますが、発症はかなり稀です。

 

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!