脳神経内科医ときどき社労士

脳神経内科専門医として、頭痛や脳梗塞など身近な病気を紹介します。関係する社会保険のことも順次紹介予定!

-神経変性疾患- 細胞がどんどん死んでいく...という話

今回は少し難しい話、神経変性疾患について紹介します。

医者も苦手な人が多い、この神経変性疾患...

でも、大体の内容を理解すれば、パーキンソン病をはじめ、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症といった、難しい病気も分かりやすくなります。 

 

 神経変性疾患について

 

いらなくなったゴミは捨てなくてはいけません!

 
人間は、食事をすることで栄養を摂取したのちに、必要のないものは排泄物(尿や便)として外に追い出しています。

人間の体は、60兆個ともよばれる細胞が集まってできていますが、細胞レベルでも同じような"栄養摂取-排泄"の現象が日々起こっています。

 

つまり、細胞そのものが生きていくために必要な栄養を取り込みますが、必要のないものは細胞の外に追い出しているのです。


一つ一つの細胞が、皆さんの家であると考えてみます。すると、必要なものを買い込んでくるのは良いですが、ゴミが確実に出てきます。


このゴミを捨てなければゴミ屋敷が出来てしまいます。そのまま放置しておくと、寝る場所もなくなってしまい、仕舞には住むことも出来なくなってしまいます。家の場合は、住人が居なくなったら空き家になるだけです。しかし細胞の場合はそうもいきません。

 

この“必要ないもの”が、外に追い出されずに細胞内にたまっていってしまうと、その細胞は徐々に傷んでいって、やがては細胞は死に至ってしまいます。


この"必要ないもの"が、何らかの原因で、神経細胞の中で作られ続けていく病気が、神経変性疾患という病気です。


神経変性疾患は、"必要ないもの"が、神経のどこで作られるか、また"必要のないもの"の種類によって数々の病気に分類されます。

 

パーキンソン病で溜まってしまう"必要ないものって?"

パーキンソン病も神経変性疾患の一つです。パーキンソン病の場合、脳にある"黒質(こくしつ)"という場所を中心に、"レビー小体"と呼ばれる物質が溜まっていくことで生じます。

 

黒質とは?

人は、無数の神経細胞がくっつき合って形成される神経のネットワーク(神経回路)が筋肉に命令をすることによって体を動かしています。

"筋肉をとにかく動かせばOK"という神経回路と、"もう少し細かく丁寧に動かそうよ"という神経回路の2種類が存在するのですが、前者を"錐体路(すいたいろ)"、後者を"錐体外路(すいたいがいろ)"と呼んでいます。

このうち、錐体外路とよばれる神経ネットワークの一員となっているのが、黒質と呼ばれる場所です。

そのため、黒質が傷んでしまうと、細かな動作が出来なくなってしまいます。また動作もたどたどしくなってしまいます。

その結果、パーキンソン症状としての動作緩慢などが出現するとされています。

 

 さらに、レビー小体の主成分がαシヌクレインということも分かってきました。

αシヌクレインが溜まる病気はパーキンソン病以外にも存在します。そのため、αシヌクレインが溜まる病気を全て合わせて"シヌクレオパチー"と呼ぶ場合もあります。

 

レビー小体あるいはαシヌクレインが溜まる原因の全容はまだ分かっていません。

 

ただし"遺伝性パーキンソン病"といって、遺伝子に異常があることで発症するパーキンソン病も5-10%程度に存在しています。

 

パーキンソン病の症状は人それぞれだったりするので、今後の研究によって原因が徐々に分かってきたら、さらに細かく分類された病気になっていくのかもしれませんね。

 

 

今回のまとめ

①神経変性疾患とは、必要のないものが細胞に溜まることで、細胞がどんどん死んでいく病気のことです。

 

②神経変性疾患は、"必要のないもの"の種類や溜まる細胞によって多くの病気に分類されます。

 

③パーキンソン病は、レビー小体と呼ばれる"必要のないもの"が溜まることで発症すると考えられています。

 

 

書きながら、改めて思いましたが、やはり神経変性疾患は難しかったでしょうか...

少しでも理解していただければ嬉しいです。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!