脳神経内科医ときどき社労士

脳神経内科専門医として、頭痛や脳梗塞など身近な病気を紹介します。関係する社会保険のことも順次紹介予定!

パーキンソン病はどのように治療するのか?

今後は、パーキンソン病をどのように治療するのか、ということを紹介しようと思っています。

 

ただ、その前に、ぜひとも知っておいてほしい基礎知識を紹介したいと思います。

今回紹介する内容は、パーキンソン病以外の病気にも共通することが多いかもしれません。

 

それでは、よろしくお願いします!

 

 

 

パーキンソン病と黒質

 

まずは、以前の記事でも紹介した、"黒質"について、再登場してもらいます。

 

黒質とは?

人は、無数の神経細胞がくっつき合って形成される神経のネットワーク(神経回路)が筋肉に命令をすることによって体を動かしています。

"筋肉をとにかく動かせばOK"という神経回路と、"もう少し細かく丁寧に動かそうよ"という神経回路の2種類が存在するのですが、前者を"錐体路(すいたいろ)"、後者を"錐体外路(すいたいがいろ)"と呼んでいます。

このうち、錐体外路とよばれる神経ネットワークの一員となっているのが、黒質と呼ばれる場所です。

そのため、黒質が傷んでしまうと、細かな動作が出来なくなってしまいます。また動作もたどたどしくなってしまいます。

その結果、パーキンソン症状としての動作緩慢などが出現するとされています。

 

この内容の中で、まず"神経のネットワーク"というものについて、もう少し詳しくお話しします。

 

 

 

神経細胞のつながり-シナプス結合-

 

人の体の中には、"中枢神経"といって特に大事な部分だけでも1000億個以上の神経細胞が存在します。それらの神経細胞はお互いに、無数のつながりをもって、お互いに情報をやり取りしています。

その"つながっている部分"のことは、"シナプス結合"と呼ばれています。

 

なお”結合"といっても完全にくっ付いている訳ではありません。

 

例えば、"A"という神経細胞が、"B"という神経細胞に情報を伝えようとしたとします

 

手紙とポストのおはなし -神経伝達物質と受容体-

その時、A細胞からは、"神経伝達物質"という手紙のようなものが細胞外へ放出されます。この手紙には、A細胞がB細胞に伝えたい情報が詰まっています

 

そのような手紙は、お隣にあるB細胞のポストに入ります。ちなみに、このポストは特定の、1種類の手紙しか受け付けることが出来ません。ポストのことは"受容体(じゅようたい)"と呼ばれていますが、例えば、"アセチルコリン"という手紙が入るポストのことは"アセチルコリン受容体"と呼ばれます。

 

 

さて、ポストに手紙が入ったことでB細胞は瞬時に情報を読み取ります。B細胞は情報を次の伝達先に伝えることになりますが、情報が書かれていた手紙はB細胞には不要となってしまいます。

 

すると、いらなくなった手紙は、B細胞の中には入れずに、外に投げ捨てられてしまいます。

 

投げ捨てられた手紙は、ゴミとして分解されることもありますが、大事な手紙なのでA細胞が(生きていれば...)取り込んで再利用することもあります

 

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神経の情報伝達のイメージ

 

 

このようなことを一日に何回も何回も繰り返すことで神経同士が情報交換をしています。そして、今回の主役である黒質にある神経細胞も、もちろん同じです。

 

 

 

黒質の神経伝達物質=ドパミン 

 

黒質にある神経細胞が出す手紙(=神経伝達物質)は、"ドパミン"と呼ばれています。そして、ドパミンを受け取るポストは"ドパミン受容体"と呼ばれています。

 

黒質の神経細胞は、体の動きをスムーズにするための指示書として、ドパミンを出すのですが、この細胞がどんどん死んでいってしまったらどうなるでしょうか。

すると、ドパミンが出てこなくなります。結果、体をスムーズに動かす指示が出てこないために、動作が遅くなり、関節も硬くなります。

 

 

パーキンソン病の治療(概論)

では、パーキンソン病をよくするために、どのような治療を行えばよいのでしょうか。

最優先は、"ドパミン"を増やすことです。

 

しかし、前回の投稿で紹介したように、パーキンソン病は神経変性疾患であるため、細胞は徐々に死滅していってしまいます。そのため、日に日にドパミンは減ります。

 

neurology-kanazawa.hatenablog.jp

 

 

 

よって、ドパミンは外から補充することになります。その薬が、レボドパ製剤と呼ばれる薬です。

 

ドパミンが"ずっと受容体に入っていてくれれば良いのでは"、という考え方もあります。この考え方のもと、"ドパミン受容体作動薬"と呼ばれる薬があります。この薬は、ドパミンに似た形なんですが、受容体から捨てられにくくする形に仕立てられています

。そのため、一回受容体に入ったら長時間効き続けることとなります。

 

他には、受容体の外に捨てられた"ドパミン"を簡単に分解させないようにする治療方法もあります。このような治療薬のことは"酵素阻害薬"とよばれます。ちなみに、酵素とは、ドパミンを分解する物質のことで、この物質の働きを押さえつければ、ドパミンが分解されず、再び神経伝達物質として働くことが出来るようになります。

 

 

まとめると次のようになります。これらがパーキンソン病の主体となる治療方法です。

①レボドパ製剤=ドパミンを補充する

②ドパミン受容体作動薬=ドパミンと似た形の薬で効きを長くする

③酵素阻害薬=ドパミンの分解を抑える

 

 

パーキンソン病の治療は他にもたくさんあります。

飲み薬以外に、手術を行うこともあります。

個々人の症状や進行度合いに応じて、治療をオーダーメイドで決めていくのです!

 

 

 

今回のまとめ

①パーキンソン病が黒質の神経細胞がどんどん死んでいく病気

②黒質の神経細胞は"ドパミン"という手紙を出して体の動きを調節

③パーキンソン病の治療はドパミンを補充したり、その手助けをしたりさまざま

 

 

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さて、ちょっと中身が濃かったかもしれませんがいかがでしたか?

今回は、パーキンソン病に限っての紹介でしたが、内容は他の病気でも通じるところが多くあると思います。参考にしていただければ幸いです。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!