脳神経内科医ときどき社労士

脳神経内科専門医として、頭痛や脳梗塞など身近な病気を紹介します。関係する社会保険のことも順次紹介予定!

パーキンソン病という病気をもっと詳しく

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

 

今回から少し、脳神経内科ならではの病気を紹介していこうと思います。

まずは、私にとって最も興味深い病気である、パーキンソン病から始めていこうと思います。パーキンソン病については、以前の記事でも簡単に紹介しました。今回は、この内容にさらに肉付けした内容から紹介したいと思います。

  

 

よろしければ、以前の投稿もご参照くださいませ

 neurology-kanazawa.hatenablog.jp

 

 

 

 



 パーキンソン病とは?



年相応ではない"動作が遅い"ということ -動作緩慢(かんまん)について-

年を取れば、どうしても歩くのが遅くなってしまいます。このような、"老化現象"は、どんな方にもいずれ訪れることです。

しかし、年齢の割に歩くのが遅いという方もいらっしゃいます。"50歳で、まだまだ現役バリバリ"...なのに最近になって妙に歩くのが遅くなってきた、なんてことになるわけです。

このような症状の方の中に、隠れているかもしれない病気、それがパーキンソン病です。そして、パーキンソン病における、動作が遅くなる状態のことですが、医学用語では、"動作緩慢(あるいは運動緩慢)"と呼ばれます。


パーキンソン病の歴史

パーキンソン病という病気は、今から200年前の1817年に、ジェームズ・パーキンソンという医師が、"振戦麻痺"という言葉を初めて使ったことが由来となり確立されました。だから"パーキンソン"という名前が入っています。神経の分野では、こんな風に病名のきっかけとなった学者の名前が入った病気が多くあります。アルツハイマー病という物忘れの病気も同様に医師の名前が由来となっています。

 

さて、そんなパーキンソン病ですが、前に述べたように"振戦麻痺"という言葉が始まりとなっています。"振戦(しんせん)”とは、手や足がプルプル震えている状態を意味する言葉です。"麻痺"は力が入っていない状態です。なので、"振戦麻痺"というのは、"手足が震えて力が入っていない"状態を意味しています。現在では"振戦麻痺"とは表現されず、ただ"振戦"と表記されます。




振戦とは

ところで振戦、つまり手足が震える状態のことですが、"どんな時に震えるか"で、次の3種類に分かれています。

①静止時振戦(もしくは安静時振戦)
②姿勢時振戦
③企図(きと)振戦

 

静止時振戦は、"じっとしている"時の震えです。例えば、ソファに座ってテレビを見ているときなどリラックスしているときに震えがでるというものです。また実際には、静止時ではないのですが、歩いているときに手に震えがでるような場合も静止時振戦の一種と考えます。

 

姿勢時振戦を感じやすいのは、なにか"もの"を持っているときです。例えば、スマートフォンを持って操作しているときや、コップを持っているときなどが、この振戦に当てはまります。

企図振戦における"企図"とは、何かをくわだてる時の、という意味です。たとえば、食器棚のコップをとろうと手を伸ばすとき、などが該当します。この時に震えがでるのですが、特に"あともう少しでコップに手が届く"というときに、目標が定まらずに震えてしまうことが多いです。


手足が震える病気はたくさんあり、振戦の種類から病名を推測します。


例えば、緊張したときに手が震える方って多いですよね。この震えが病的にひどくなるということがあり、"本態性(ほんたいせい)振戦"と呼ばれます。
本態性振戦は、振戦を生じる病気の中で、最も多くの患者さんがいらっしゃる病気です。この病気は、姿勢時振戦が特徴的です。姿勢時振戦を来す代表的な病気は他に、甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)が有名です。


他に、アルコール中毒の人で手が震えている方がいます。この場合の震えは、企図振戦です。アルコールを飲みすぎると、"小脳"と呼ばれる脳みそが傷んでしまいます。小脳障害があると、アルコール中毒に限らず企図振戦を生じることとなります。

そして、本題のパーキンソン病の場合というと、静止時振戦が特徴的です。実際には、"両手を前に突き出して数秒してから震えがでてくる"という姿勢時振戦の症状もありますが、主体はあくまで"静止時振戦"です。




パーキンソン病を診察だけで診断する!

パーキンソン病の主要な症状は、とにかく最初に紹介した"動作緩慢"です。この症状がなければパーキンソン病と診断することはできません。
そして、このほかに、静止時振戦か筋強剛(きんきょうごう)のどちらか1つだけでもあれば(もちろん両方あってもOKです)、パーキンソン病と診断できます。

 

さて、初めて出てきた"筋強剛"とはどういう状態でしょうか。
静止時振戦や動作緩慢は、実際に医師が診察しなくても、患者さん自身の自覚症状として現れてきます。
しかし筋強剛は、自覚できない症状です。これだけは、医師が診察するしかありません。実際診察するときは椅子に座った状態で、手の力を抜いてもらいます。その時に、腕の関節を曲げ伸ばししても、普通は特に抵抗なくスムーズに動きます。

 

しかしスムーズに動かせなくなる状態があります。関節を動かしている間ずっと、まるで鉛の俸を"ぐにゃっと"曲げているような硬い感じや、"カクカク"と歯車を回しているような感じがあります。

そのため、筋強剛は、"鉛管様筋強剛"や"歯車様筋強剛"などと呼ばれます。

 

後述しますが、筋強剛を生じる病気はパーキンソン病だけではありません。しかし、筋強剛の中でも特にパーキンソン病に特徴的なものがあります。それは"歯車様筋強剛"です。歯車様筋強剛は、静止時振戦とともに、パーキンソン病と診断する場合、とても明確な症状なのです。

ちなみに関節を曲げようとした最初の時に特に強い抵抗がある場合は、筋強剛とは呼ばれず"拘縮(こうしゅく)"といいます。実は、"筋強剛"は元々、"筋固縮"と呼ばれていました。しかし"固縮"と"拘縮"では、発音した時似ていますよね。そのため、紛らわしくないよう、パーキンソン病の時に見られる関節の硬さは、"筋強剛"と呼ばれるようになりました。

 

 


ここまで出てきた、パーキンソン病で出現する症状をまとめると以下のようになります。

①動作緩慢
②静止時振戦
③筋強剛

これらの症状は、"パーキンソン病に良く出現する症状"という意味合いで、"パーキンソン症状"と名付けられています。


パーキンソン症状は他にもいろいろあり、例えば、歩行障害が挙げられます。歩くことに異常が出てくるという訳ですが、"歩くときに歩幅が小さくなる"小刻み歩行とか"最初の一歩が踏み出せない"すくみ足が代表的です。


他にも、"バランスを保つのが難しくなり転びやすくなる"とか"止まろうとしても止まれない(突進現象とも呼ばれます)"といった姿勢反射障害などが代表的です。

 

 


歩行障害や姿勢反射障害は、以前はパーキンソン病を診断するために大事な症状の一つとされていました。しかし、このような症状が発症早期(特に症状が出始めて5年以内)に出現するときは、"あまりパーキンソン病っぽくない"という傾向があることから、診断基準項目から除かれました。

 

 

 

 

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今回のまとめ

①パーキンソン病=病的に動作が遅くなる病気

②歯車のように関節が固くなることはパーキンソン病の決め手!

③じっとしているときに手が震えるのもパーキンソン病の決め手!

④パーキンソン病のように見えて、パーキンソン病ではない病気に要注意! 

 

 

今回は、パーキンソン病を診断する上で、最も大事な症状のお話を中心に紹介しました。脳神経内科を受診したことがある方は、他の科とは違った診察を受けていて、"何してるんだ?”と思うことも多いかもしれません。

 

医師はこんなことを見ているんだ、ということが少しでも知っていただくことが出来れば幸いです。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!